Was / Were
・・・ / ・・・
 太陽は薄光を下ろし、白く化粧を始めた山々に、未だ覆い隠されている。早朝の、しん―と静まった冷たい空気が清正の身体を包んでいた。

羽柴秀吉邸の一室。
「・・・俺は・・・お前のようなやつが・・・嫌いだ」
秀吉の小姓として召抱えられたばかりの、三成、という男へ言葉を捨て放った。秀吉に部屋の掃除を頼まれていた清正が、その部屋へ足を運ぶと、三成がすでに掃除を始めていた。以前から、三成が周囲に片鱗を覗かせていた抜け目のなさが清正は嫌いだった。

清正は、三成が寺小姓をしていたときに、秀吉に才を見出されて以来、お気に入りとなった・・・という話を正則から聞いていた。正則はひょうきん者で常に騒がしい男であったが、それ以上に気骨を感じさせる男だった。いつも清正と共に行動しているが、今はいない。
 三成は、ちら―と清正の顔を見て、何も言わずに濡れた雑巾でたたみ拭きをはじめた。清正は、その横柄で傲慢な態度がキライなんだ、と舌打ちをして三成の胸倉を乱暴に掴んだ。それでも、三成は清正の目を真っ直ぐに見据えるだけで、物は言わない。しばらく、二人の間に沈黙の時が流れた。

「・・・俺も、力ずくで物事を解決するようなやつが、大嫌いだ」
 先に、言葉の空を切ったのは三成だった。長いまつげの影が目元に落ちている。清正の手元に力が入る。
「俺を嫌いな理由があるなら、すべて述べるがいい。それで、清正の心が晴れるならいくらでも聞いてやる」
 三成の横柄な言葉に、清正は苛立った。力の限り、その場に押し倒し、馬乗りになった。そのまま殴ってやろうと思った、が、できなかった。抗うであろうと思っていた、三成の身体はダラリとうな垂れている。そして、清正をじっと見つめる目は涼んでいる。
 その目の姿は、清正の記憶の中にはなかった。顔や、押し倒した身体までも清正が記憶しているものとは違っているような気がした。

 色は白く、絹のように滑らかな肌をしている三成の頬に触れてみた。ビク―と三成の半身が揺れた。先ほどの涼やかで凛とした目は消え、怯えの色が見え始めた。口の色は朱味を帯びて憂いている。その妖しくも美しい容姿を三成が湛えていたことに清正は驚愕した。
 たたみに落ちている清正の手は、そのまま三成を突き放すつもりだったが、意志とは別の抑えられぬ気持ちが後押しし、着物の胸元を裂いていた。
 三成の白い肌が顕になると、清正の喉がゴクリと鳴った。

 三成の怯えたような表情と、手に触れた肌の感触が忘れられず、引き返すことができなかった。未だ、女を抱いたことのない清正であったが、その術は秀吉に男の嗜みとして仕込まれている。
 清正は、すでに本能で覆いつくされていた。そこへ、
「やめろ・・・」
 初めて三成が抵抗の意志を示した。しかし、示すには遅すぎた。
 清正の心は、三成の身体へと意識が傾いている。まず、抵抗を示し始めた口を塞がんと、口づけをし、舌先を押した。口内で押し返される柔らかな感触は、今までに経験をしたことがないくらいに清正を昂ぶらせた。
「ん・・・ん・・・・・・」
 三成の口から漏れる吐息は、一人の男を性への高ぶりへと誘発させるほどの力を携えていた。三成の両の手は、清正の片手で押さえ込まれていた。清正の手は成人男性の手よりも一回り大きく、武士の掌として立派だ、と褒め称えられているほどのものであった。一方、三成の白くて華奢な手はまるで女性のもののようだった。身体のすべてが柔らかい。
 まさか女ではないだろうな・・・?清正の胸中に小さな疑問が沸いた。しかし、それはすぐに掻き消された。はだいた胸元に膨らみなどなかった。そのまま胸から下、三成の衣をすべて解き、裸出させた。  三成の目が濡れている。
「清正・・・俺のことが憎くてこのようなことをするのか」
「そうだ」
 短く答え、三成の乳首を舌先で咥えた。あ・・・という声に耳元が濡れる。本当に憎くてこのような行為の及んでいるのか、ただの好奇心なのか・・・それとも・・・・・・別の感情が新しく生まれているのか清正本人にもよくわからなかった。
 ただ、若さ故の青き性を止めることなどできない、ということであった。

 硬くなっている触角を手で掴むと、快楽を要求するように小さな振動がおこった。その欲望に答えるように手で強く擦った・・・。
「あ・・・きよま・・・さ」
 ぬる―とした液体を先端から垂れさせている三成の身体は、抵抗を示すどころか両手を清正の首にかけ、抱きついていた。さらには、女性のように足を広げ、挿入を即すかのような姿勢をとった。
「三成・・・お前、まさか」
 まさか、男に抱かれるのが初めてではない・・・ということか。清正は眩暈がした。

 あらん限りの知識を揃えて、期待に答えるほかなかった。こちらから戦を仕掛けたのである。すごすごと撤退などと許されるはずがない。
 指で触れた秘所はすでに濡れそぼっていて、指を立てると、す―と飲み込んだ。三成は眉間に皺をよせていたが、この男には不釣合いだと思った。
「清正・・・もっと・・・」
 まさか、の要求に清正は苦笑いをし、指の数を増やした。そして中で強く掻き混ぜた。
「バカが・・・中がキツくて、もうこれ以上はいんねーからな」
「ん・・・」
 いつも無表情で、多くの人間から不評を買っている男の隠微な姿に、清正はますます我慢ができなくなっていた。
「悪い・・・指抜くからな」
「あぁ・・・ダメだ。もう少し・・・」
 懇願に背き、抜いた指はねっとりと湿っている。その指で、自身の硬くなった触角を掴み、秘所を突き上げた。
 苦しそうな声を上げながらも、三成は、腰を振っていた。なんだよ、痛くねぇのかよ、どこでこんなん覚えたんだ。優等生のあるべき姿じゃない。声にして言いたかったが、すべて飲み込んだ。

 強く腰を動かす清正の身体に、三成はぎゅっと抱きついている。お互いの声が他の部屋に漏れぬようできるだけ声を殺していた。
 しかし、その刹那、同時にイキ果てた瞬間、大きく声を上げてしまったがどうでもよかった。
 世界のすべてがどうでもよくなるほどに、快楽の中枢に身を落としてしまっていた。

 二人の白濁とした液体は、三成の腹の上に流れている。清正は乱れた息を整え、脱ぎ散らかした着物の中から懐紙を取り出し、優しく拭いた。白の紙の上に、どちらのものともわからない液体が染み込んでいる様を見て、現実に引き戻された。
 何がきっかけで、二人の間に何が起こり、このような事態になったのか掘り起こそうと目を閉じ、思案する。

「おい。もうすぐ一番鶏が泣き出すぞ。掃除だ」
そう言って、衣服をすばやく身につけた三成は、持っていた雑巾を清正の顔へと投げつけた。