(壱)
秋の訪れを感じさせる生暖かで緩やかな風が、清正の頬を撫でる。
どれくらい久しぶりだろうか、羽柴隊に訪れた束の間の休息を他の小姓たちと楽しんでいる。正則の唐突な思いつきにより、相撲の勝負を挑まれた清正は腕まくりをし、ぶつかり合った。なかなかのよい勝負だ。周りの小姓仲間たちも勝つと見込んだ方の名前を叫び、応援している。
そこへ。菖蒲色の着物を着た、美しい少女が通りかかるや否や・・・。相撲への関心をよそに、皆、羨望にも近い眼差しを美少女へ向けている。
その様子に気づいた正則も、清正との勝負を放り出し、美しき少女に目を奪われている。
「やれやれ・・・」
清正は溜息交じりに呟いた。悪童たちに参加はしない。
「きーよぉ、まさぁ!!見てみろよ、あの娘、かわいくね〜??」
「別に」
鼻を鳴らして答える。
「なんだよ・・・清正は、ああいう感じの娘はダメなのかよ〜。どんなのが好きなんだよ?なぁ教えろよ〜!あ〜?」
正則の騒々しさに、胸を掌で突いてやる。うるさい、バカ。いつもの一言を添えて。
再び溜息をついた清正が見たのは、正則の肩越し、三成の姿。どうやら三成も娘には興味がないらしく、退屈そうな顔をして、大きな石の上に腰をかけて書物を読んでいる。
美しい。と悪童たちが騒ぎ立てている娘よりも、黙っていて、すました顔の三成の方がよっぽど美しいのではないか・・・?清正は、首をかしげた。しかし、すぐに(三成、が?)と思い直し、恐ろしいことを心に浮かべてしまった自分自身に身震いした。
清正の胸をザワリとした不吉が締め付ける。
その姿を、正則が不思議そうに眺めていた。
(弐)
あの日からおかしい。頭が・・・ではなく身体が。不吉がいよいよ訪れたのであろうか。
静かな朝に三成を乱暴に抱いた。その日から、清正は少なからずとも性に目覚めてしまったらしい。人目を忍んでは、昂ぶってしまったモノを擦り上げる。頭に浮かぶのは、気持ち良さそうに喘ぐ三成の姿。
そして、その姿を思い出すと、必ず浮かぶ疑問。清正が初めての相手ではなかったであろうこと。そんなこと、俺には関係のないことだ。声に出してみるが、胸はチク―と音を立てる。この、痛みの原因を取り去ってしまいたい。
思いだしたら、いてもたってもいられないタチの清正は足早に三成の姿を探した。
(参)
井戸水を汲む桶を重そうに運んでいる三成の姿を見つけるや、清正は足早に近づいて、袖を強くひっぱった。三成の手から離れた桶が、地面に派手な音を立てた。
三成は何も言わず、ただ清正の顔を強く睨みつける。
ただ、睨むだけの時間が続き、その態度が清正を苛立たせる。
痺れを切らし、三成の腕を掴んでひと気のない木陰に引っ張り込んだ。
「仕事の最中だ。邪魔をしない・・・」
言葉が終わる前に三成の髪を掴み寄せ、舌を押し込んだ。三成から漏れる吐息を聞きながら清正のモノはすでに硬くなっている。それを三成の腰に押し付けた。
口を離し、背中に両腕を回しこむ。逃げられないように。
だが、はき出してしまいたい言葉が出てこない。三成の過去を洗い出して、どうしようというのだ。三成の何を知りたいのだろう。きっと知らなくてもいいことに違いない。そう思い込むことにして、清正の思考はそこで停止する。
清正の胸の中、上目づかいで三成が口を開く。
「まさか、また俺を犯すつもりなのか」
「そうだ」
「ここで」
「そうだ」
「なぜ」
・・・なぜ。清正には答えられない。
「五月蝿い、黙ってろ」
そのまま地面に押し伏せて、犯した。
――清正の身体には大きな快感が訪れる。
「いた・・・い・・・」
以前とは違い後ろを慣らすことなく突いた結果、三成は苦痛の表情を浮かべている。それでも、清正の腕を強くつかんで耐えているように見える。その様子が、妙に愛おしく感じる。
清正は腰を強く振って、三成の中で震わせた。
すでに硬さを失ったものを抜き出すと、痛さに堪えていたためだろう三成の目から、一筋の涙が流れていることに気づく。
「あ・・・」
声をかけようとしたが、三成の口づけに塞がれる。三成から・・・まさか―。心が昂ぶる。が、それは一瞬の夢として終わる。
「いたっっ」
三成に舌を強く噛まれ、唾液に血の味が混ざっている。
「俺の苦痛はそれ以上のものだ」
冷たい視線が清正に向けられる。
そうかもしれない・・・が、可愛げがない。お互いに、苛立ちをあらわしながら衣服を整え、無言でその場を立ち去った。
草履の音をペタペタと鳴らしながら清正は首を捻った。
三成から、「痛い」という抗議の声は何度も聞いたが、「やめてくれ」という言葉は一度も発せられなかった。その事実についてなんども考える。
相変わらず見つかる答えなどなかったが、清正の心から不吉の「不」の文字がスッと消えた。